2026年9月19日、第20回アジア競技大会「愛知・名古屋2026」が開幕した。大会にはアジア45の国と地域から選手・役員らが参加し、9月19日から10月4日まで41競技が行われる。続いて10月18日から24日まで、第5回アジアパラ競技大会が開催される予定である。日本でのアジア競技大会は東京、広島に続いて3回目となり、愛知県と名古屋市にとっても極めて大規模な国際イベントである。(名古屋市役所)

現時点で確認できる公的資料と報道を基にすると、特に重要なのは、GL eventsは「大会全体を丸ごと運営するフランス企業」ではない一方、58会場の会場設営・会場運営という非常に大きな領域を一体的に担う契約を結んでおり、その選定が一般競争入札ではなく、親会社GL events SAの「プレステージパートナー」という立場と組織委員会の契約規則に基づく随意契約だったという点である。ここには、検証すべき明確な論点がある。検証するには、「外国企業に任せたから問題が起きた」という単純な構図にするよりも、①なぜ愛知・名古屋が開催都市になったのか、②誰が大会全体の責任を負っているのか、③どの業務を誰に委託したのか、④GL events Japanがなぜ選ばれたのか、⑤実際に起きた問題はどの契約・管理領域に属するのか、⑥その選定・監督体制は妥当だったのかを切り分けるのが重要である。

ところが、開幕前から選手団の受け入れや宿泊環境をめぐる問題が相次ぎ、開幕直後には韓国代表の試合前に北朝鮮国歌が流れるという重大な国際儀礼上のミスまで発生した。9月18日の男子ホッケー韓国対バングラデシュ戦では、韓国国歌「愛国歌」の代わりに北朝鮮国歌が流れ、その後バングラデシュ国歌、韓国国歌の順に演奏された。大会組織委員会は19日、韓国側に謝罪し、再発防止を表明した。韓国側の大韓体育会も経緯説明と公式な謝罪、再発防止策を要求している。

この問題を単なる「現場のミス」として片付けることはできない。なぜなら、国歌、選手団輸送、宿泊、競技会場、認証、式典などは、国際総合競技大会では最も基本的な大会運営機能だからである。しかも今回は、開催費用が巨額に膨らみ、会場運営などの主要業務について外部企業への大規模委託が行われている。したがって問われるべきなのは、個々のミスそのものだけではなく、大会を誰が設計し、誰が管理し、誰に責任を負わせる仕組みを構築したのかというガバナンスの問題である。

1.愛知・名古屋はどのようにアジア大会を招致したのか

愛知・名古屋のアジア大会招致は2016年に始まった。3月30日に日本オリンピック委員会(JOC)が国内立候補都市の募集を開始し、愛知県と名古屋市は5月に共同立候補を表明した。その後、県と市の共催合意を経て、2016年9月25日、ベトナム・ダナンで開催された第35回アジア・オリンピック評議会(OCA)総会で愛知・名古屋が2026年大会の開催都市に決定した。(名古屋市役所)

その後、2018年8月19日に、OCA、日本オリンピック委員会、愛知県、名古屋市の4者による開催都市契約が締結された。この契約によって、大会開催における各当事者の権利と義務が具体化された。

つまり、今回の大会は「民間企業が主催するイベント」ではない。国際的にはOCAを大会主催者とし、日本側では愛知県、名古屋市、JOC、そして大会組織委員会が関係する公共性の極めて高い事業である。

2.アジアパラ大会は別の経緯で愛知・名古屋に決まった

アジアパラ競技大会については、アジア競技大会とは別のプロセスを経ている。2019年1月15日に愛知県と名古屋市が日本パラスポーツ協会内の日本パラリンピック委員会から開催要請を受け、2022年3月28日に県・市・JPCが開催を表明した。同年4月8日、アジアパラリンピック委員会(APC)の臨時理事会で愛知・名古屋が開催都市に決定し、2023年10月3日に開催都市契約が締結された。

大会は2026年10月18日から24日まで、45の国と地域から約3,600~4,000人の選手・チーム役員が参加し、18競技を行う予定である。

したがって、今回の「アジア大会・アジアパラ大会」は名称こそ一体的に扱われているものの、国際的な大会主体はOCAとAPCに分かれている。一方、日本側では共通の大会組織委員会である公益財団法人愛知・名古屋アジア・アジアパラ競技大会組織委員会、すなわちAINAGOCが開催準備・運営を担っている。

3.大会運営の最終責任者はGL eventsではない

ここは今回の問題を考えるうえで最も重要な点である。

現在報道されている問題から、あたかも「フランスのGL eventsが大会全体を運営している」と理解すると、事実関係を誤る。

大会の準備・運営主体はAINAGOCであり、OCA、APC、愛知県、名古屋市、JOC、日本パラスポーツ協会などが、それぞれの立場から関係する。名古屋市も大会推進本部を設け、愛知県との合同準備体制を構築している。2019年5月には愛知県、名古屋市、JOCが組織委員会を設立し、2020年9月には公益財団法人へ移行した。

したがって、仮にGL eventsの業務に問題があったとしても、「GL eventsが大会の責任者だった」という構造ではない。

むしろ問題は、主催者・組織委員会が、どの機能を自ら保持し、どの機能を外部企業に委ね、その外部企業をどのように監督する体制を構築したのかにある。

これは国際大会のガバナンスを考えるうえで極めて重要な問題である。

4.ではGL eventsは何を担当しているのか

GL eventsはフランス・リヨンに本拠を置く国際的なイベント関連企業グループである。公式発表によれば、同社は2018年インドネシア・アジア大会、2019年ラグビーワールドカップ日本大会、東京2020、2024年パリ五輪・パラリンピックなど、大規模スポーツイベントに関与してきたとしている。今回の愛知・名古屋大会では58会場について、会場調査・設計、仮設インフラ、ホスピタリティ・メディアエリア、アクセス・認証、表彰式などを担当する「Event Delivery Entity」と位置付けられている。

この実績だけを見ると、GL eventsを「国際大会の経験が乏しい会社」と評価することはできない。むしろ国際的なイベント運営・会場設営の専門会社として相当な経験を持っている。

したがって、今回の問題を「外国企業だから能力がない」という問題として処理するのは適切ではない。

問題になるのは、そのような経験を持つ会社であっても、愛知・名古屋2026の複雑な条件の中で十分な運営能力を発揮できる契約・監督体制になっていたのかということである。

5.最大のポイント――なぜGL eventsが選ばれたのか

ここに今回の問題を検証する重要な核心がある。

GL events Japanとの契約は、通常の競争入札によって選ばれたものではない。愛知県議会での政府側答弁によれば、親会社であるGL events SAが両大会の「プレステージパートナー」であることを理由として、組織委員会契約規則第20条第14号に基づく随意契約の候補者として選定され、理事会の承認を経て契約が締結された。

ここには非常に興味深い構造がある。

2024年12月18日の段階で、GL events Japanについて、両大会のパートナーシップ契約締結に向けた合意がなされていた。カテゴリーは「会場運営(会場内設営含む)」であり、競技運営と開閉会式運営は除外されていた。

その後、2025年1月29日にGL events SAが両大会のTier1プレステージパートナーとなる覚書が締結され、2025年4月3日にGL events Japanと会場設営・運営関連の委託契約が締結された。(愛知名古屋2026)

つまり、時系列としては、

GL eventsが大会のパートナーになる
→ GL events SAがプレステージパートナーになる
→ そのグループの日本法人GL events Japanが会場運営等の随意契約候補となる
→ 大規模な会場設営・運営業務を受託する

という関係になっている。

これは違法であることを意味するものではない。組織委員会自身の契約規則に基づいて行われた契約だからである。

しかし、公共性の高い大会で巨額の契約を締結する以上、「なぜ競争入札ではなく随意契約が適切だったのか」「国際実績をどのように評価したのか」「他社との比較をどのように行ったのか」については、十分な説明責任が求められる。

6.契約規模は約630億円――「会場運営」の範囲は極めて大きい

愛知県議会では、GL eventsへの業務について約630億円規模であることが説明されている。2025年9月の県議会資料では、GL eventsへの「べニューオペレーション」を一体的に委託しており、約630億円について、個別発注なら約700億円だったところを一体発注によって抑えたとの説明がなされている。

この数字は重要である。

大会全体の経費が約2,980億円とされるなか、GL eventsに関係する会場運営・設営業務が約630億円規模に達するなら、それは大会経費のかなり大きな部分を占める。2025年12月時点で公表された大会経費見通しでは、宿泊520億円、輸送190億円、警備280億円、競技関係490億円、IT・メディア540億円など、大会運営には非常に多くの専門分野が存在する。

したがってGL eventsは「大会全部を運営する会社」ではないが、大会の物理的な現場を成立させる会場設営・会場運営について、非常に大きな責任範囲を持つ会社と位置付けることができる。

7.一方、宿泊施設はGL eventsの担当ではない

ここも混同してはいけない。

今回大きな問題となっている移動式宿泊施設は、GL eventsが建設したものではない。大会組織委員会の資料によれば、移動式宿泊施設の整備については「愛知・名古屋2026大会JV ニトリ・アーキビジョン21」が契約相手となっており、代表企業はアーキビジョン二十一、構成企業はニトリである。変更後の契約金額は約82億円となっている。

また、宿泊業務についてはJTBが大会関係者宿泊などのサービスを担うパートナーとなっている。大会公式サイトも、クルーズ船についてはコスタ社とJTBに委託していると説明しており、チェックイン遅延については両社に原因はないとの見解を示している。

つまり、

会場設営・会場運営=GL events
移動式宿泊施設=ニトリ・アーキビジョン21 JV
宿泊関連サービス=JTB等
開閉会式=Zhejiang Dafeng Industry等

というように、複数の企業が機能別に配置されている。

したがって、コンテナ型宿泊施設の狭さをGL eventsの運営能力の問題と直接結びつけることはできない。

8.コンテナ宿泊施設は「突発的に作った」のではない

移動式宿泊施設についても、単純に「宿泊施設を用意できなかったためコンテナを置いた」という説明では不十分である。

組織委員会はもともと、選手村を建設しない方針を採用していた。名古屋市が公表した計画では、名古屋市内で開催される競技の選手団について、移動式宿泊施設とクルーズ船を合わせて約6,000人規模の宿泊拠点を整備する構想だった。

移動式宿泊施設は、災害時には応急仮設住宅などとして活用できる施設を大会後にも利用する「事前防災」の考え方と結び付けられていた。アジアパラ大会でも利用できるアクセシビリティの高いモデルを開発し、大会後のレガシーとして活用することが構想されていた。

問題は、この「持続可能性」「防災」「大会後利用」という政策目的と、実際に国際大会の選手が快適に生活できる宿泊環境との間にギャップが生じたことである。

実際、コンテナ型宿泊施設については、選手から「手狭」とする声が出ている。日刊スポーツの取材では、1棟が約70平方メートルで2つのユニットから構成され、それぞれに4台のベッドを配置する構造で、特に身長2メートルを超える選手などから狭さを指摘する声が紹介されている。

一方で、食事については評価する声もあり、すべての宿泊サービスが一律に不十分だったわけではない。

9.さらに重要なのは「15,000人」という設計条件と実際の参加規模

宿泊問題には、もう一つ重要な背景がある。

AINAGOCは2026年8月28日、開催都市契約に基づき最大15,000人を収容できる宿泊施設を用意してきたと説明した。一方、選手団の人数は17,000人規模になる可能性が報じられ、OCAとの調整の結果、15,000人を超える部分については一部のチーム役員が各国・地域のNOC自身で宿泊施設を確保する方式が取られた。

Reutersも、当初想定していた15,000人から参加規模が増え、最終的に約17,000人規模となったことが宿泊問題の一因になったと報じている。クルーズ船、ホテル、Airbnb、コンテナ型施設などを組み合わせて受け入れる方式となった。

ここには、大会計画そのものの問題がある。

国際大会では、参加人数は単なる統計数字ではない。人数が増えれば、部屋、ベッド、食事、バス、空港対応、警備、医療、通訳、認証、通信など、ほぼすべての運営機能が連鎖的に増える。

したがって、15,000人を基準として構築されたシステムに17,000人が入ってくれば、単純な「2,000人増」以上の負荷が発生する。

これは外部委託会社だけの問題ではなく、大会全体の需要予測と変更管理の問題として検証する必要がある。

10.そしてGL eventsには、別の重大な検証材料が存在する

GL eventsの選定をめぐって、最も重要なのが大阪・関西万博である。

2025年、大阪・関西万博の海外パビリオン工事をめぐり、GL events Japanが元請けとなった工事で下請け企業が工事代金の未払いを訴える問題が報道された。共同通信系の報道では、GL events Japanが元請けだった海外パビリオンについて、下請け企業が支払いを受けていないと訴え、一部企業が提訴準備を進めていると報じられた。

この問題は愛知県議会でも取り上げられた。

2025年7月の県議会では、GL events Japanから組織委員会に大阪・関西万博についての報告文書が提出され、組織委員会がその内容を精査していることが説明された。

さらに8月の大村愛知県知事の記者会見では、県側がGL eventsから事情説明を受けたことが明らかにされた。ただし知事は、万博に関する民間企業間の契約問題については、当事者間の問題であるとの立場を示している。

ここで重要なのは、「未払い問題が報じられた=GL eventsが大会運営能力を持たない」と直ちに結論づけることはできないということである。

実際、GL events側にも自らの説明・主張があり、個別の支払い問題については係争中の案件もある。したがって、愛知・名古屋大会について評価する場合には、大阪・関西万博の事案をそのまま大会運営能力の証明とみなすのではなく、元請けとして下請企業を管理する能力、支払管理、契約管理、サプライチェーン管理に関するリスク情報として検証することが適切である。

11.愛知県も問題を認識していた

興味深いのは、愛知県が大阪・関西万博の問題を認識した後も、GL eventsとの契約を継続したことである。

2025年8月19日の知事会見では、県側がGL eventsに対して、アジア大会・アジアパラ大会の会場設営・管理運営業務について適切な遂行を求めるとともに、下請企業についても安心して業務を受けられるよう有効かつ確実な対策を講じるよう要請したことが説明されている。

つまり、行政側も「大阪・関西万博の問題は存在しない」として無視していたわけではない。

むしろ、

問題を認識
→ GL eventsから説明を受ける
→ アジア大会については契約を継続
→ 下請企業への対応強化を要請

という対応を取っている。

ここで今後問われるのは、その「対策」が具体的に何だったのかである。

例えば、下請企業への支払状況を組織委員会が確認していたのか、契約書に支払い条件をどのように設定したのか、再委託先をどこまで把握していたのか、施工能力・財務能力をどのように審査したのか、問題発生時の代替事業者を確保していたのか、といった点である。

12.「外国企業だから問題」という議論では本質を外す

今回の議論で注意すべきなのは、GL eventsがフランス企業であることそのものを問題視することである。

GL eventsには、東京2020、パリ2024、インドネシア2018などの国際大会への参加実績がある。少なくとも公開情報からは、「国際大会の経験がない会社」という評価は成り立たない。

むしろ日本側に問われるべきなのは、国際経験を持つ外国企業を使うのであれば、

「何を委託するのか」

「どこまで責任を負わせるのか」

「日本側は何を管理するのか」

「再委託先をどう管理するのか」

「事故・トラブル時に誰が最終判断するのか」

という責任分界を明確にしたかどうかである。

国際イベントの運営では、外国企業を使うこと自体が問題なのではない。むしろ海外の専門企業を適切に組み込むことは合理的な選択になり得る。

問題は、発注者側が「専門企業だから任せておけばよい」という状態になっていなかったかである。

13.今回の国歌誤演奏は「会場運営」の問題なのか

ここでも契約構造を確認する必要がある。

GL eventsのパートナーシップ契約におけるカテゴリーは「会場運営(会場内設営含む)」であり、明確に「競技運営、開閉会式運営は除く」とされている。

したがって、韓国対バングラデシュ戦で北朝鮮国歌が流れた問題について、現時点で公開されている情報だけからGL events Japanの責任だと断定することはできない。

大会組織委員会は、この件について「深くおわびする」と謝罪し、原因について確認を進めている。毎日新聞の取材に対して組織委員会関係者が「リハーサル不足。しっかり準備をしていなかった」と説明したとの報道もあるが、正式な原因究明結果とは区別して扱う必要がある。

むしろこの問題から見えてくるのは、国歌という最重要プロトコルを含め、競技会場の運営品質を誰が統合管理していたのかという点である。

14.開閉会式についても別会社が担当している

さらに開閉会式はGL eventsの担当ではない。

愛知県議会での説明によれば、開閉会式の運営計画作成等については、中国のZhejiang Dafeng Industry Co., Ltd.(ジャージャン・ダーフェン・インダストリー)が2025年8月22日に組織委員会と委託契約を締結した。2025年4月1日には同社がアジア競技大会のOCAスポンサー、AINAGOC Tier2オフィシャルパートナーとなっており、これを理由として随意契約候補者に選定されたと説明されている。

つまり、大会には、

大会全体=AINAGOC
国際大会側=OCA・APC
会場設営・会場運営=GL events
宿泊=JTBなど
移動式宿泊施設=ニトリ・アーキビジョン21 JV
開閉会式=Zhejiang Dafeng Industry
輸送=東武トップツアーズ等

という多層的な発注構造が存在している。

この構造そのものが悪いわけではない。しかし、委託先が増えるほど「誰が全体最適を見るのか」という統合管理機能が重要になる。

15.本当に検証すべきなのは「再委託先」である

今回、特に情報公開が求められるのは、GL events Japanのさらに下に存在する企業群である。

愛知県自身が2025年8月の知事会見で、GL eventsは日本法人として個別業務を多くの下請事業者に発注することになるため、下請企業が安心して業務を受けられるよう対策を講じるよう要請したと説明している。

ここから考えると、今後公開されるべき情報は単なる「GL events Japanの会社概要」ではない。

重要なのは、

どの業務をGL events Japanが直接実施したのか。
どの業務を再委託したのか。
再委託先は何社あるのか。
それぞれの契約金額はいくらなのか。
施工・運営能力をどのように確認したのか。
下請企業への支払いは適正に行われたのか。
再委託先に問題が発生した場合、誰が代替するのか。

という情報である。

これは「外国企業への委託」という問題を超えて、公共事業におけるサプライチェーン・ガバナンスの問題である。

16.大会費用が膨張したことも、運営問題と切り離せない

もう一つ無視できないのが、大会経費の増大である。

2016年の招致構想では、大会主催者負担経費は850億円とされていた。その内訳は運営経費440億円、競技会場仮設整備費110億円、選手村仮設整備費300億円というものだった。

これに対し、2025年12月時点で公表された大会経費は2,980億円となった。さらに大会関連経費まで含めれば約3,700億円規模との説明もなされている。

単純比較すると、当初構想と現在の大会経費には極めて大きな差がある。

もちろん、その間には物価上昇、競技数・施設条件の変更、警備費、人件費、輸送費、宿泊費など様々な変化があった。したがって「3倍になったから直ちに計画が失敗した」と結論づけることはできない。

しかし、巨額の追加費用が必要になったのであれば、その費用増加と運営品質の関係を検証することは不可欠である。

巨額の費用を投入しているにもかかわらず、宿泊、輸送、認証、国歌、案内などの基本的な部分で問題が生じているのであれば、発注構造とプロジェクトマネジメントを検証する十分な理由がある。

17.今回の問題を「失敗した外国企業」の話にしてはいけない

ここまでを整理すると、今回の問題には少なくとも四つの層がある。

第一は、大会計画そのものの問題である。参加人数、競技数、会場数、宿泊需要などをどのように予測し、変更をどの段階で計画に反映したのかという問題である。

第二は、大会組織の問題である。OCA・APC、AINAGOC、愛知県、名古屋市、JOCなどの間で、誰が最終的な統合責任を負うのかという問題である。

第三は、委託管理の問題である。GL eventsなどの外部企業に業務を委託した場合、発注者側がどこまで品質・工程・再委託・支払いを監督したのかという問題である。

第四は、現場運営の問題である。国歌の取り違え、チェックイン、輸送、宿泊、案内など、実際の大会参加者が経験するサービス品質の問題である。

これらを全部まとめて「フランス企業に任せたから失敗した」としてしまうと、本当に必要な検証ができなくなる。

18.では、何を明らかにすればよいのか

今回の大会について、開催後の検証として最も重要なのは「誰が悪かったか」という責任追及だけではない。

むしろ、次の大会に同じ問題を繰り返さないためには、契約と責任分界を公開することが重要になる。

特に、GL events Japanについては、約630億円規模とされる会場設営・運営業務について、契約書、業務範囲、支払い条件、再委託先、再委託金額、品質管理体制、工程管理体制、事故・トラブル時の責任分担を可能な限り明らかにする必要がある。

そして、なぜ競争入札ではなく随意契約を採用したのかについても、「プレステージパートナーだったから」という説明だけで終わらせず、国際大会実績、価格、技術力、国内調達能力、財務能力、再委託管理能力、リスク管理能力をどのように比較評価したのかを示すことが望ましい。

さらに、大阪・関西万博での下請企業とのトラブルを認識した後、愛知・名古屋大会についてどのような追加的な審査・監督を実施したのかも、検証可能な形で示すべきである。

19.「日本の体面」よりも重要なのは、日本の大会運営能力への信頼である

国際大会における国歌の誤演奏は、単なる音源操作のミスではない。国際スポーツ大会では、国旗、国歌、選手団、競技、表彰などが国家・地域を代表する重要なプロトコルだからである。

一方で、日本の国際的な評価を一度のミスだけで判断するのも適切ではない。

重要なのは、問題が起きた後に、主催者が事実関係を明らかにし、原因を特定し、責任分界を明確にし、再発防止策を実施できるかどうかである。

今回の大会についても、宿泊問題については組織委員会が参加人数の増加を説明し、国歌誤演奏については謝罪と原因確認を行っている。したがって、現段階では「大会全体が運営不能だった」と評価するよりも、どの問題がどの組織・企業のどの工程で発生したのかを一件ずつ追跡することが必要である。

20.今回の大会から見えてくる、日本の国際イベント政策の課題

愛知・名古屋2026の問題は、単なる一つのスポーツ大会の問題として終わらせるべきではない。

日本ではこれまで、東京五輪、大阪・関西万博、ラグビーワールドカップなど、大規模国際イベントを数多く開催してきた。そのたびに、国内企業と海外企業、広告会社、イベント会社、建設会社、旅行会社、警備会社、自治体などが複雑なネットワークを形成してきた。

これから必要なのは、国際イベントを「誰か一社に丸ごと任せる」発想ではなく、大会主催者がプロジェクト全体を統合管理する能力を持つことである。

海外企業を活用してもよい。むしろ国際大会では海外企業の専門性を積極的に活用することが合理的な場合もある。

しかし、海外企業であれ国内企業であれ、公共性の高い大型イベントの最終的なガバナンス責任まで外部化することはできない。

今回のケースでいえば、GL eventsが持つ国際的な会場運営能力を活用しながら、日本側のAINAGOCが契約、品質、工程、再委託、下請支払い、選手団対応、国際プロトコルを統合管理する仕組みが必要だった。

そして、それが実際に機能したのかを、今後の検証で明らかにしなければならない。

結論――問われているのは「外国企業への委託」ではなく「発注者の統合能力」である

愛知・名古屋アジア大会、アジアパラ大会をめぐる今回の問題を整理すると、最大の論点は「なぜフランス企業に委託したのか」だけではない。

より本質的な問いは、

「なぜGL eventsを選んだのか」
「どのような比較評価を行ったのか」
「なぜ随意契約が適切だと判断したのか」
「約630億円規模の業務について、何をGL eventsに任せ、何をAINAGOCが管理したのか」
「GL eventsの下にある再委託企業を誰が把握していたのか」
「大阪・関西万博の問題を認識した後、どのようなリスク管理を行ったのか」
「今回の宿泊・輸送・国歌等の問題は、どの組織のどの工程で発生したのか」

ということである。

そして最も重要なのは、これらの問いに対する答えを、開催主体である日本側が自ら公開することである。

国際大会の信頼性は、トラブルを一度も起こさないことだけで決まるものではない。トラブルが発生したときに、契約構造、責任構造、意思決定過程、再委託構造、費用構造を透明にし、原因を検証して改善する能力によっても決まる。

愛知・名古屋2026は、まさにその能力を日本側が示す機会になっている。

大会そのものを成功させることと同時に、大会終了後には、組織委員会、愛知県、名古屋市、OCA・APC、そして各委託企業について、**「誰が何を担当し、どの契約で、いくらで、どの企業に再委託し、どのような品質管理を行い、どの問題がどこで発生したのか」**を検証可能な形で公開することが望ましい。

それができれば、今回の問題は単なる「大会運営上の失敗談」ではなく、日本の国際イベント運営能力を改善するための重要なケーススタディになる。