CPTPPについての討議用設問集
CPTPPについての討議用設問集

CPTPPをテーマとした討議用設問集を学部上級〜大学院レベルを想定し、段階的に思考が深まるようなものとして下記のように作成しました。単なる賛否ではなく、国際関係論・国際政治学・制度論・日本外交を横断的に議論できる設問群です。


【導入編】概念理解を確認する設問

設問1

CPTPPは「自由貿易協定」であると言われることが多いが、
本当にそれだけの制度だろうか。
国際政治学の観点から見た場合、CPTPPはどのような性格の制度と位置づけられるか。

  • ヒント
    • 制度(institution)とは何か
    • 貿易自由化と秩序形成の違い

模範的議論例

CPTPPは表面的には自由貿易協定であるが、国際政治学的に見ると、それ以上の性格を持つ制度である。
なぜなら、CPTPPは単に関税を引き下げるだけでなく、国有企業の行動規律、知的財産、データ流通、労働・環境基準といった、国家の統治様式そのものに踏み込むルールを含んでいるからである。

これは市場取引の条件設定ではなく、「どのような国家行動が正当か」を定義する制度であり、国際秩序の一部を構成している。
その意味でCPTPPは、経済協定の形を取った国際制度、あるいは価値秩序形成装置と位置づけることができる。


設問2

TPPから米国が離脱したにもかかわらず、CPTPPが成立・維持されたことは、
国際秩序論の観点からどのような「例外的現象」と言えるか。

  • ヒント
    • 覇権安定論
    • 中堅国(middle power)の役割

【理論編】国際関係論からの分析

設問3(リアリズム)

リアリズムの立場から見た場合、CPTPPは
①中国封じ込めの道具
②勢力均衡の一形態
③単なる経済協定
のどれに最も近いと考えられるか。理由を示せ。

  • 発展議論
    • 「ハード・バランシング」と「ソフト・バランシング」の違い

模範的議論例

リアリズムの観点から見ると、CPTPPは中国を直接排除する「封じ込め」ではなく、ソフト・バランシングの一形態と考えるのが妥当である。

CPTPPは軍事力や制裁によって中国を抑え込むのではなく、高水準のルールを設定することで、中国が参加しにくい環境を作り、相対的な影響力を制限している。
これは、直接的対抗ではなく、制度を通じた間接的な勢力均衡であり、現代的なリアリズムの戦略に合致する。


設問4(リベラル制度論)

リベラル制度論の立場から、CPTPPの

  • 国有企業規律
  • 労働・環境基準
  • データ流通規定

は、国家行動をどのように制約すると考えられるか。


設問5(構成主義)

CPTPPは「価値」や「規範」を共有する枠組みと言えるか。
もしそうだとすれば、CPTPPは参加国の

  • 政策選好
  • 国家アイデンティティ

にどのような影響を与える可能性があるか。

模範的議論例

構成主義的に見ると、CPTPPは単なる契約ではなく、参加国に特定の規範意識を内面化させる制度である。

例えば、国有企業規律は「国家が市場を歪める行為は正当ではない」という価値判断を前提としている。
また、データの自由流通は、情報統制よりも透明性を重視する統治観を反映している。

これらの規範を共有することで、参加国は次第に「CPTPP的な国家像」を前提に政策を考えるようになり、国家アイデンティティや政策選好にも影響を受ける可能性がある。


【日本外交編】日本の国際的位置づけ

設問6

CPTPPにおける日本の役割は、
戦後日本外交のどのような変化を象徴していると考えられるか。

  • 比較視点
    • GATT・WTO時代の日本
    • 米国主導秩序下の日本

模範的議論例

CPTPPは、日本が「米国主導秩序の受益者」から「制度を支える主体」へと転換したことを象徴している。

戦後日本は、GATTやWTO体制の下でルールを守る側に徹してきたが、CPTPPでは米国離脱後も制度を維持し、交渉を主導した。
これは、日本が国際秩序の消費者から、部分的ではあるが供給者へと役割を変えたことを意味する。


設問7

日本は軍事的には覇権国ではない。
それにもかかわらず、CPTPPにおいて日本が中心的役割を果たせた理由は何か。

  • ヒント
    • 信頼
    • 技術・標準
    • 合意形成能力

模範的議論例

日本がCPTPPを主導できた理由は、軍事力ではなく制度的信頼にある。

日本は、

  • 交渉ルールを守る
  • 合意を履行する
  • 一方的な制度変更をしない

という実績を積み重ねてきた。
その結果、日本が中心に立つことで、他の参加国も「覇権的に利用されない」と安心して協力できた。


設問8

CPTPPを主導することは、日本にとって
「安全保障上のリスク」になりうるか、それとも
「安全保障上の資産」になりうるか。


【米中対立編】陣営形成と制度競争

設問9

現在の米中対立は「新冷戦」と呼ばれることがあるが、
冷戦期(米ソ)と比べた場合、何が決定的に異なるのか。

  • ヒント
    • 経済の相互依存
    • 制度とルールの役割

模範的議論例

米中対立が冷戦と異なる最大の点は、経済と制度が深く絡み合っていることである。

米ソ冷戦では経済圏はほぼ分断されていたが、現在の米中対立では相互依存が存在する。
そのため、対立は軍事よりも制度・技術・標準といった分野で展開され、CPTPPのような制度が重要な意味を持つ。



設問10

中国がCPTPPへの加盟を申請している事実を、
国際政治学的にどのように解釈すべきか。

  • 選択肢例
    • 真の制度適応意思
    • 時間稼ぎ
    • 制度内部からの影響力行使

模範的議論例

中国の加盟申請は、必ずしも現行ルールを全面的に受け入れる意思を示すものとは限らない。

むしろ、

  • 排除されることへの警戒
  • 制度内部からの影響力行使
  • 国際社会に改革姿勢を示す外交的効果

といった複数の目的が考えられる。

この点で、中国の申請は制度適応と制度利用の両面を持つ戦略的行動と解釈できる。


設問11

CPTPPは中国を「排除」する制度なのか、
それとも「選別」する制度なのか。
両者の違いを明確にしたうえで議論せよ。

模範的議論例

CPTPPは特定国を排除する制度ではなく、参加条件によって自然に陣営が分かれる「選別型制度」である。

ルールを受け入れられる国は参加でき、受け入れられない国は参加できない。
これは軍事同盟のような明示的排除ではなく、制度を通じた間接的な陣営形成である。


【新冷戦時代編】制度の戦略的役割

設問12

新冷戦時代において、
軍事同盟とCPTPPのような経済・制度枠組みは、
どのような関係にあると考えられるか。

  • ヒント
    • ハードパワーとソフトパワー
    • 相互補完関係

設問13

CPTPPは「緩やかな同盟(soft alliance)」と呼べるか。
その場合、通常の同盟と比べた利点と限界は何か。

模範的議論例

CPTPPは軍事的義務を伴わないが、経済・制度面で参加国の行動を束縛する点で、緩やかな同盟とみなすことができる。

利点は、対立を過度に先鋭化させずに協調関係を築けることであり、限界は安全保障の即応性や強制力に欠ける点である。


【発展・応用編】政策シミュレーション

設問14(ロールプレイ)

以下の立場に分かれて討論せよ。

  • 日本政府
  • 米国政府
  • 中国政府
  • ASEAN加盟国

それぞれの立場から見て、
CPTPPは「参加すべき制度」か「警戒すべき制度」か。


設問15

仮に米国がCPTPPに復帰した場合、
CPTPPの性格はどのように変化すると思われるか。
日本の立場は強まるか、弱まるか。

模範的議論例

米国が復帰すればCPTPPの影響力は増すが、日本の相対的主導権は低下する可能性がある。

一方で、日本は制度設計者としての実績を持つため、完全に周縁化されることはない。
むしろ、日本が「制度の調停者」として新たな役割を担う余地が生まれる。


設問16

CPTPPを今後10年で
「技術安全保障」や「データガバナンス」の中核制度に発展させるとしたら、
どのような制度改正・新規ルールが必要か。


【総括編】思考を深める問い

設問17

CPTPPは、

  • 中国を変える制度なのか
  • 中国抜きの秩序を作る制度なのか

どちらに近いと考えるか。その理由を述べよ。


設問18(最終設問)

CPTPPは、
「日本がどのような国際秩序を望むか」
という問いに対する一つの答えだと言えるか。

模範的議論例(最終到達例)

CPTPPは、日本が望む国際秩序の姿を具体化した制度であると言える。

それは、

  • 軍事力による支配ではなく
  • 強制的排除でもなく
  • ルールと合意による秩序形成

を重視する姿勢である。

CPTPPは、日本が「どの陣営に属するか」ではなく、「どのような秩序を支えるか」を選択した結果として理解できる。


付録:ゼミ運営用アドバイス(簡易)

  • 90分授業:
    • 前半45分:設問1〜7
    • 後半45分:設問9・14・18
  • レポート課題向け:
    • 設問6+設問11+設問18の組み合わせ
  • 大学院向け:
    • 理論(設問3〜5)+政策(設問14〜16)

として設計しています。
教員が配布資料として使うことも、学生が自己点検に使うことも可能です。